ホンダ「フィット ハイブリッド」に試乗しました。

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試乗記

【試乗記】ホンダ「フィット ハイブリッド」

6月に発表されたアコードから始まった、ホンダのハイブリッドの新しい流れ「SPORT HYBRID(スポーツ ハイブリッド)i-MMD」は、これまでのエンジン主導型でワンモーターだったホンダのハイブリッドの流れを大きく方向転換し、トヨタなどと同様のいわゆる2モーター方式へと舵を切ったものだ。カムリのカタログに記載された燃費1リットルあたり23.5㎞(JC08モード)に比較すると、アコードのそれは30.0㎞(JC08モード)と、同クラスながらかなり差を付けた印象である。ただ、アコードは2リッター、カムリは2.5リッターとエンジンの排気量は違うが、プリウスなどでもエンジン排気量が増えて却って燃費が向上する例もあるので、エンジン排気量そのものの意味はあまり大きくないと考えた方が良さそうだ。また、ホンダは2モーターに固執することなく、1モーターでのハイブリッドも採用する意向で、幅広いバージョンを揃える意向都のことだった。さて、今回はそのホンダが誇る「SPORT HYBRID(スポーツ ハイブリッド)i-MMD」の第2弾、1モーター方式の新型FITに試乗してみた。

新型「フィット ハイブリッド」

■トータル・パッケージについて

3代目となる新型フィットが発表されたのは2013年9月6日。朝から雨の降る東京ディズニーランド隣接の施設内だった。ステージ上に並べられた3代目フィットの全体的な印象は、2010年に発表された2代目と比較して、サイズ的にはほとんど変わらないが、ちょっとヨーロッパのコンパクトカーを彷彿とさせる印象を持っていた。発表会の席上、これまで世界戦略車として君臨してきたシビックに代わり、この新型フィットがホンダの世界市場における牽引車となっていくことが期待されている旨が語られたが、おそらく海外のマーケットも意識してのデザインなのだろう。側面に施されたプレスラインの造作などは、なかなかアグレッシブなイメージで悪くないと思う。
エンジンはハイブリッド仕様が1.5リットルのDOHCに上記の「SPORT HYBRID(スポーツ ハイブリッド) i-DCD」と呼ばれる1モーター方式のハイブリッドシステムが採用された。これまでのエンジンによる発進が原則だったホンダのハイブリッドシステムと違い、1モータでありながらモーターによる発信(EV発進)が可能になったという。カタログに記載された燃費はガソリン1リットルあたり36.4㎞(JC08モード)と、ついにハイブリッド車トップの低燃費を実現した。また、ハイブリッドシステムを搭載しないガソリン車は1.3リッター版と1.5リッター版が用意され、1.3リッター版では26.0㎞という燃費を実現している。1.5リッターのガソリン車は、どちらかといえばレスポンス重視の、パワー嗜好のエンジンという印象だ。
ホンダお得意の「センタータンクレイアウト」のおかげで、重心は低そうであり、室内のスペースも余裕が感じられるが、残念なことに物入れが少ない。フロントシートのシートバックポケットさえないのだ。小さな車体に最大限の室内空間は理解できるが、もう少し使い勝手も考えて欲しいところではある。ジャーナリスト仲間では、大きく傾斜したフロントウインドウとAピラーのせいで右左折時の視界が悪いという意見もあったが、実際に乗ってみると、横着をせずにバックレストから背中を離して、自分の上半身を動かせばまったく問題はなかった。

■試乗

メディア向けの試乗会等にかり出された試乗車の動きが落ち着いた10月、1日だけであったが「フィット ハイブリッド」を借り出すチャンスがあったので、さっそく試乗してみた。青山のホンダ本社で受け取った広報車は「タイプS」と呼ばれるスポーティバージョンで、車体色はビビッドスカイブルー・パールと名付けられた鮮やかなブルーで、ハイブリッド専用のカラーだ。運転席に座ってまず気づくのが、これまでのオートマチック・トランスミッション車と同様だったホンダのハイブリッド車とまったく違うセレクターだ。それはあたかもパソコンのコントローラーのような印象で、コツ・コツとポジションを切り替えるのではなく、右に倒して手前に引くだけで、ほとんど手応えもないまま、メーター上に「D」のマークが表示され、発車オーライとなる。

スロットルを踏み込むと、モーターによる発進のため、ほぼ音もなく走り始める。スタート時点では完全にEV(電気自動車)だ。地下駐車場から地上に上がるスロープにさしかかるとエンジンが起動し、そのまま滑らかに加速していく。エンジンが始動する瞬間はそれなりの音がするが、パワーの繋がり方はスムーズで、エンジンがアシストした瞬間の段差のような印象はなかった。

実際に走り出す。都内の場合、周囲の車の加速が速いので、モーターだけでの発進では流れに乗りにくいことは確かだ。必然的にエンジンの稼働する機会は増えることになる。もちろん、モーターだけでの発進も可能だが、どうしても加速が足りず、流れに乗ろうとスロットルを踏み込むとエンジンが始動するということに相成る。

高速に上がり流れに乗ると、新型フィットの走りは一変する。コンパクトな車体にモーターのトルク感、そしてエンジンのパワーが加わる印象で、ターボとまでは言わないが、モーターとエンジンが共同で加速にあたることから、時速70㎞あたりからの加速感は、スポーティでさえある。これは7速デュアルクラッチトランスミッションの恩恵に負うところ大で、低速域ではモーターを中心に、空燃費の良い速度域ではエンジンを中心にモーターがアシストするシステムは、加速時、定速走行時にそれぞれの速度域で最適なギア比を割り当てることから、燃費だけでなく走行性能向上にも大きく貢献している。

乗り心地は比較的硬めだ。かなり明確に路面の起伏を伝えては来るが、決して安っぽい印象ではない。ホイールベースの長い車ならいざ知らず、フィットのようなコンパクトカーで、ある程度の走行安定性を確保しようとすれば、この乗り心地は許容範囲内であるといえるだろう。リアに採用された新設計のトーションビーム方式のサスペンションもこの走行安定性には一役買っている。ホンダは左右の後車輪を連結する通常1本のトーションビームを2本とし、前側のビームを柔らかめに設定することで、この運動性能を実現したのだという。筆者の個人的な印象だが、ダブルウィッシュボーン方式には敵わないにせよ、下手なマルチリンク方式よりもロードホールディングやコーナリング性能は高く感じた。

■燃費

ちょうど混み合う時間帯に都内を走ることになってしまったせいか、じゅうたいのおおい都心での走行ではガソリン1リッターあたり14.5㎞程度の燃費だった。高速道に上がり、かなり流れをリードするような走り方をしたが、その状態で1リッターあたり21㎞。郊外の比較的好いた道路を流していれば1リッターあたり19㎞といった印象だった。車両を返却する途中、意図的に高速道路上で燃費走行をやってみたが、比較的簡単に1リッターあたり22~23㎞程度の燃費は実現できそうだった。

ちなみに、ハイブリッドではない、1.3リッターおよび1.5リッターモデルにも、今回の第3世代フィットからアイドリングストップ機能が追加された。このことが、カタログに記載された燃費の向上に大きく貢献していることは確かだろう。

■アトキンソンサイクル・エンジン

アトキンソン・サイクルとは、従来型のエンジンにおけるコンロッドとクランクシャフトの間に「トリゴナルリンク」と呼ばれるリンクを配し、吸気時にはピストンの行程(ストローク)を短くし、爆発・燃焼時には長いストロークで多くの仕事をさせるというもので、いまからおよそ130年前(1882年)に、イギリスのジェームズ・アトキンソン氏によって開発された、圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善したエンジンの構造である。ながらく、気候が複雑で高回転型のエンジンには不向きとされてきたが、ホンダは2011年にガスコージェネレーション用エンジンとして実用化(ホンダ・EXlinkエンジン)した。このアトキンソンサイクル・エンジンは先行のアコードに搭載されたハイブリッドシステムにも採用され、今回のフィットでも、1.5リッターのハイブリッドシステムと、1.3リッターのガソリンモデルに採用されている。1.5リッターのガソリンモデルには採用されなかったのは、RSと名付けられたスポーツモデルがあったためだろうと思う。

■まとめ

何しろ、ハイブリッド車最高の1リッターあたり36.4㎞という燃費性能を1,635,000円という価格で入手できるのだから、お買い得感は高い。しかも、サスペンションなどの基本性能はベーシックモデルのハイブリッドから最上級のタイプS(1,830,000円)まで同じである。コンパクトカーでハイブリッドを望むなら、一考する価値のあるモデルだと思う。

ライタープロフィール
林 溪清(はやし けいしん)

ジャーナリスト・ラジオパーソナリティ。
コピーライターを経て執筆活動に入る。渓流釣りや自動車、旅行記を中心に執筆を続け、環境問題や省エネルギーについての著述も多い。
2009年からは江東区のコミュニティFM局である「レインボータウンFMの「大江戸ワイドSuper Saturday」のメインパーソナリティとして出演。こよなく江戸の「いき」を愛する、自称後発性江戸っ子として下町文化を発信し続けている。
2011年8月よりNPO法人「江戸まち通信」の代表として活動を開始。 江東区亀戸に「江戸まち茶屋」を開き、地域振興、地元商店街振興に取り組んでいる。
著書に『F1の秘密』(PHP文庫/PHP軽装版)、『究極のスピード インディカー』。

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